第21回 NPO法人 たんなん夢レディオ 伊藤 務 氏
起業家の息吹は、「NPO法人たんなん夢レディオ」理事長の伊藤 務 氏です。
学生時代、電気工学を専攻していた伊藤さんは、足掛け2年半かけて、自転車で日本一週の旅を決行するなど、探究心と好奇心の旺盛な青年時代を歩んで来られました。
学校卒業後は、旧国鉄(現JR)に就職。新幹線のコントロールシステム関連の職場で技術者としての社会人生活をスタート。業務の傍ら、持ち前の正義感が高じて労働組合活動に参加。当時の国鉄が抱えていた様々な問題を組合活動を通して見てこられた伊藤さんでした。国鉄時代に一級無線技術士の資格を獲得され退職。縁あって、FM福井の立上げに技術・放送制作責任者として、深く関わられました。縁あって、と述べましたが、交通事故で瀕死の重傷を負い、病院に担ぎ込まれた後、リハビリ中に初めて見ることができたテレビで、FM福井の開局準備室のニュースをたまたま見たのがご縁のきっかけだったそうです。
伊藤さんは、FM福井創業者の一人である桑原会長から様々な人々と接する機会をつくって頂き、育てて頂いたそうです。これが後々の多くのご縁につながっていったのですね。
もともと、探究心が強く、「社会的事象の根本を歴史や起源まで、掘り下げて理解しないと本質はわからない」と言われる伊藤さんだけに、先入観を排除し、通念的イデオロギーに固執することなく、また「他の人の意見を尊重する」という博愛的倫理観のもと、数多くの知己人脈をつくってこられ、「左(革新的)から右(保守的)、さらには、中間(それ以外、一般的にあやしげな人々)まで、非常に多くの人脈を在局時代に作ってこられました。これは、伊藤さんご自身の親しみやすい人柄が拍車をかけたのだと思いました。
学生時代に自転車で日本一周されたときに、佐世保に米国空母ミッドウェイの寄航した時のこと、夕張峠で米国人家族とのちょっとした出会いが、英語を勉強するきっかけになったということです。
その後、欧州旅行をした時に、デンマーク人の元兵士との出会いが現在のNPOを立ち上げるきっかけとなりました。英語を使うことができなかったら、恐らくこの出会いはなかったでしょう。
背中に太平洋戦争時に日本兵に切りつけられた大きな刀傷痕を持った老人から、福祉の仕事を示唆された伊藤さんは、帰りの飛行機の中で、自分の進むべき道を確認したということです。
それまで培ってきた通信に関する技術と知識と人脈をもとに、NPO直営の放送局としては全国で2番目となる、「たんなん夢レディオ」を開局に着手。総務省との折衝をはじめとする、「6つの障害」を乗り越え、2005年7月7日にNPOを設立。同年10月21日に放送を開始しました。(ちなみに、10月21日は、アントレセンターが2003年に認証を受けた日です。何かのご縁を感じます。)
伊藤さんがNPO直営の放送局にこだわったのは、事業の目的が放送局の運営のみではなく、福祉や文化の発信、さらには戦争のない平和な社会づくりへの貢献といった、社会的活動を進めるためでした。従いまして、「誰でも、気軽にラジオ局に参画できる。言いたいことがあれば、市民が発言・発信する力をつける場をつくりたい」という放送局運営に関する理念を持っておられるようです。
文化発信の視点では、さらに「丹南文化編集室ae?(*)」という情報誌も発刊されています。
(*)ae は、発音記号のaとeの母音の中間の音で、不用意に驚いたり、へ?と思ったときに発する音だそうです。
この情報誌の内容の深さに驚きました。元曹洞宗管長や京大名誉教授若狭湾エネルギー研究センター所長、海外からの寄稿など時代観や歴史観、人間観などに富んだ内容となっています。伊藤さんの言葉を借りると、「自然科学において(-)×(-)=(+)はご存知でしょうけど、実は(-)×(-)=(-)もOKという事実。物理と数学の密接な関係においては客観的真理に基づいた存在をも認めるということ。この考え方は社会科学においても唯物論的解釈においても当てはまります。つまり、人間の思考過程において、何事にも束縛されない自由な思考がとっても大切であるということ。このような視点から数理科学から、正信偈、般若心経まで、様々な分野の課題を、人生経験豊かな、体験に基づき自由に自分の考えで、自分の責任において投稿していただき、判断は読者に委ねるという雑誌になっています。」(勝木書店他でフリーペーパーとして配置されています。どうぞ一度ご覧下さい。)
伊藤さんは、これまで心に傷を持つ5人の若者の社会への巣立ちを支援してこられました。今後さらに多くの人々を支援していきたいと仰っておられます。
氏の物理学や数学の理論からくる遠大な宇宙観や人間観をもとに、社会をよくしていきたいという強い思いに参加者一同感銘を受け、文字通り「社会起業家」としての活動を応援していきたいと思ったものです。
最後に、起業家として重要な資質について、伊藤さんなりのキーワードをお尋ねしました。それは以下の通りです。
(1)人生一回
一度しかない人生を大切に生きようと思うこと。どれだけ長く人生を味わうことができるかが結局は幸せであるという氏の人生観がにじみ出ています。
(2)だますより、だまされろ
不義理や人をだましたりすることは、世間を狭くするだけ。一人でも多くの人と絆、ご縁を深めるには、人をだますより、だまされたほうがいい。
(3)商品の値段はお客につけさせる
商品の価格はお客様が納得する価格でなければ、ならない。もっと、もっとという欲がでると、適正価格がわからなくなり、お客様が離れる。お客様の価値が価格である、とするならば、お客様に値段を付けてもらったほうがいい。(これは、某大富豪に直接教えてもらったそうです。)
(4)出合った人をみんな大切にする
好き嫌いで人を遠ざけたりしてしまうのは、愚か。どれだけ、異質な意見や苦手な人を受け入れられるか、その度量の大きさが人間の幅となる。ひいては、事業の糧になる。(これは、学生時代に恩師に教えてもらったそうです。)
(5)自分よりできる人にたくさん来てもらうように
自分の力には限界がある。事業の成功は、自分より能力の高い人にどれだけ、多く身近にいてもらえるかが要諦。
(6)ネットワークをたくさん持つ
上記(4)、(5)の結果、ネットワークができる。ネットワークこそ、財産。
(7)ゆるぎない信念を持つ
金もうけではなく、社会的価値を提供するという信念。人はこの信念があれば、どんなことでもできるし、多くの人に共感をもってもらえる。
(8)人間上座へ座りたくなったら人間をやめる
常に謙虚でいることの大切さを元暴力団幹部が改心し、能登半島門前で修行をされていた僧侶から与えられた言葉だそうです。
(9)自由を得るために、義務を全うする
人の幸せは「自由」であること。これに尽きる。社会生活のなかで、より自由であるためには、応分の義務を果たすべき。義務を果たすことは自由の権利を獲得すること。
以上、順不同です。
(9)の項目の自由を得るということについて、日本の現在の民主主義社会の稚拙さを嘆いておられました。「与えられた民主主義」国家である日本は、欧州各国のように命をかけて勝ち取った民主主義とはその「起源」がまったく違う。似て非なるもの。それを今の日本人は自覚すべき時に来ているというご意見を頂きました。その通りだと思いました。これは、伊藤さんがかつて英国南西ウェールズを一人旅していたときに、夜空に舞う花火の意味を滞在先の家庭で教えてもらった時にそう思ったとのこと。その花火は200年前から続いているそうで、民衆が血を流して、民主主義を勝ち得たことを永遠に忘れてはならないということを残すための花火だったそうです。
宇宙物理学や数学、さらには、人類発祥起源まで、幅広い知識と見識をもった伊藤さんのお話は、これから、起業、再起業を目指そうとしている我々にとって、現在の事業スタンスそのものを見直させるような、インパクトの強いものでした。それだけ多くの気づきを得ることができました。
伊藤理事長、本当に有難うございました。
【NPO法人たんなん夢レディオ様 概要】
理事長 伊藤 務 様
事務局 福井県鯖江市本町2丁目2番16号 地域交流センター1F
送信所 鯖江市西山公園
周波数 79.1Mhz帯(出力 20W)
放送エリア 鯖江市を中心に隣接する南越前町・越前市・越前町及び福井市
エリア内人口 約25万
電話(0778)53-2563
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